「1つの欧州」は実現できるかのニュース記事
国家は破綻するという題名
以下ニュース記事引用
国家は破綻する
元国際通貨基金(IMF)主任エコノミストで米ハーバード大のケネス・ロゴフ教授は共著『国家は破綻する』の中で過去800年にさかのぼって金融危機や国家のデフォルト(債務不履行)を詳細に分析した。かつては戦費調達や王族の浪費で借金がかさむと貸し手を処刑して帳消しにしたり、債権国が借金を返さない国を占領したりすることさえあった。
現代になっても事情は変わらない。米金融大手シティバンクのウォルター・リストン元CEO(最高経営責任者)は「国家が破産するはずがない」といって途上国に積極的に資金を貸し出したが、その後、メキシコやアルゼンチンが債務の返済を拒否。今、ギリシャやイタリアなど欧州単一通貨ユーロ圏の重債務国がデフォルトしないかと世界中が気をもんでいる。
『国家は破綻する』によると、18世紀のフランス財務相は「政府は不均衡解消のため100年ごとに少なくとも1度はデフォルトすべきだ」と考えていた。1800年以降に欧州でデフォルトまたは債務再編した回数ではスペインが13回で首位、フランスは9回、ドイツは8回にのぼっている。
今回、債務危機の発源地となったギリシャは5回だが、独立から半分以上の期間、債務超過に陥っていた。8、9日の欧州連合(EU、27カ国加盟)首脳会議で新基本条約制定を求める独仏両国と対立し、のけ者にされてしまった英国はゼロ。ベルルスコーニ前首相の優柔不断さがアダとなり、「落第」の烙印(らくいん)を押されたイタリアは歴史的には優等生で1回だけだ。
世界金融危機を引き起こしたリーマン・ショックの後知恵で、欧州中央銀行(ECB)などは債務危機が拡大してから銀行間市場に無制限に資金を供給し、銀行の資本増強を決めて金融危機の発生をくい止める。しかし、3年前との違いは公的資金を即座に注入できるほど財政の余裕がないことだ。
◆金融危機が招く債務危機
信用バブルが弾けると金融危機が起き、銀行の貸しはがしや貸し渋りで経済が縮小し、倒産が相次ぐ。政府は景気刺激策を強いられて財政赤字が膨らみ、債務危機に陥る。日本ではバブル崩壊前の民間債務が公的債務の約2倍だったが、今では完全に逆転した。これと同じ現象が欧米で見られるようになり、「ジャパナイゼーション(日本化)」と呼ばれている。
ユーロ圏は財政規律の違反国に自動的に制裁を発動する「新財政協定」を来年3月までに結ぶことで合意した。しかし、危機脱出の解答は、メルケル独首相が主導した緊縮一本やりの財政政策でないことだけは確かだ。
欧州のシンクタンク、欧州外交評議会のセバスチャン・ドゥリーン氏は解説する。新財政協定ではGDPの60%を超える債務は20年間でなくす約束で、政府債務が130%のイタリアは毎年3・5ポイントずつ削減。経済成長や財政赤字の予測を加味すると来年、さらに3・6%の予算削減が強いられる。氏は「20年も非現実的な緊縮策を続けると景気後退が深刻化し、各国政府だけでなく新財政協定をも破壊するだろう」と語る。
◆メルケル首相のビジョン
ユーロ圏の重債務国にドイツ流の厳格さで財政再建を迫るメルケル首相について、コール元首相のスピーチライターを務めたミヒャエル・シュテュルマー氏はかつて筆者に「大きなビジョンがない天才的戦術家」と酷評した。
強い通貨ドイツ・マルクを捨てユーロ導入を進めたコール氏は15歳で終戦を迎えた。コール少年は進撃してきた米軍に追われ、ポーランド人がヒトラーユーゲントに激しい殴打を浴びせるのを目の当たりにした。ウクライナからフランスまでが廃虚と化し、5千万人以上が犠牲になった。
コール氏だけでなく、欧州の戦中派指導者にとり「1つの欧州」は悲願であり、ユーロはその象徴でもあった。それに比して、今回の債務危機を「大戦後、最も厳しい局面」とたとえるメルケル首相の対応からは重債務国への不信感と国内世論への配慮しか感じられない。戦争の記憶が遠のき、欧州統合の理想は語られなくなった。
債務の一部を免除してもらってもギリシャが自力再建できないのは明らかだ。ギリシャをユーロ圏から離脱させるのか、永遠に丸抱えするのか。財政同盟に向けて、ユーロ圏が共同で債務を保証するユーロ共同債を発行するのか。
メルケル首相の緊縮策でユーロ圏の景気は悪化し、財政再建もますます厳しくなることは、すでにギリシャで実証済みだ。ドイツは逆にユーロ安の恩恵で貿易黒字を積み上げる。財源はある。あとは政治決断の問題だ。ユーロの命運は「1つの欧州」にかける同首相の情熱とビジョンにかかっているのだが…。